vol.118
2021.2.26 (fri)
25:55:07
先週、車を買った。
最近あった出来事の中で、分かりやすく目立つトピックといえばこれになると思う。
ひょっとすると自分は死ぬまで車を所有することはないかもしれない、と思って生きてきたし、単価も今まで買ったものの中で一番高い。
と言っても10年落ちの激安中古車なので、そこまでの値段でもないのだけど。
でも気に入った車が見つかったので、大事に乗っていきたいと思う。
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中学のときに1年間付き合っていた女の子と久しぶりにラインしたら、春に入籍することになったとのことだった。自分ももうすぐ遠方に引っ越すので、近況報告がてら久しぶりに会おうということになり、地元のファミレスに行った。
その子と付き合っていた当時、一緒にいて盛り上がったような記憶があまりない。向こうから話しかけてくることはあまりなくて、多くの場合は僕が何かしら話題を振っていたような気がする。でも決して無口な子というわけではなくて、仲の良い女の子の友だちと話している時なんかは、かなり盛り上がってワイワイやっているような感じだったと思う。学校や何かでそういう様子を遠くから見かけることがあって、自分といる時にもそういう表情を見せてくれたら良いのにな、とかたまに思っていた気がする。なんか悔しいというか、寂しいというか。今になって思えば、中学生の男女交際って少なからずそういう距離感だよなとも思うけど。
で、数日前に久しぶりに会うことになって、お互い大人になったし、けっこう話も弾むのではないかと思っていたのだけど、会ってみたらその頃とあまり変わらなかった。あまり話題と話題が繋がらなくて、ちょくちょく沈黙に挟まれる感じ。1対1でちゃんと話すのは多分10年以上ぶりで、話すことがいっぱいあるような気がしていたのだけど、いざ会ってみると「ここ数年で印象的だった出来事ってなに?」「う〜ん、特にないな…」みたいな感じだった。お互い「特にない」はずはないんだけど、ちょうど良いネタは思いつかない、というか。そんなペースで2時間くらい喋って、2人で地元をブラブラして帰った。
たとえば、いま初めてその子と知り合ってデートしたとして、会話がそういう感じの地味な盛り上がり方だったら、そこから恋愛に発展する可能性は低い気がする。で、中学生のときはそういうことまで気が回るわけでもないし、色々な流れの中で付き合い始めることになって、取り立てて相性が良いわけでもないのに何となく1年くらい付き合っていたのかもしれないな……と一瞬思ったんだけど、すぐに「絶対そうじゃない」と思った。
会話が盛り上がるかどうかとか、そんな表面的なこととは別の部分の何かに魅かれて僕はその子のことが好きだったし、向こうも僕の何か(その頃の自分のどこに人を魅きつける要素があったのか、全く想像できないのだけれど)を好きでいてくれたと思う。そして盛り上がらない会話の中でその子が口にする数少ない言葉の中には、寡黙な人が1つ1つ確かめて配置していく言葉特有の輝きがしばしば宿っていたと思う。それは何か凝った単語を使ったり重厚な言い回しをしたり、ということではなく、ここで分かりやすい例を挙げることは難しい。多くの場合それらはどれも平易な言葉だけれど、話すスピードや前後の会話の文脈や、色んな物事の関係性の中で、河を流れていく水のきらめきのように輝くものだ。だから、僕は昔も今も、その子との「盛り上がらない会話」が退屈だったことは一度もない。
そしてこういうところまで含めて、中学生の男女交際の中にしか宿り得ない輝きなんじゃないかなと思った。あるいは、いつまでも異性とそういう関係を築いていける人もいるのかもしれないけれど。
自分は4月に30歳になる。その子と付き合っていたのは15歳の時のことで、ちょうど人生の「半分前」という感じだ。その頃のことを思い出すと半分は前世の記憶のようにも思える。もちろん、外から見たら「15年」という時間が特に大した長さを持っているわけではないということは分かっているけど。
「最近、誰か中学のときの同級生に会った?」
「うーん、あんまり会ってないな。ほとんど限られた人だけ。最近はそれも減ってきた」
「誰か中学の頃と印象変わった人いる?」
「いや特に。みんな変わらないよ」
「おれは?」
「昔と変わらないよ」
自分は来月、30年間暮らした東京から一度出て行く。
26:46:47