DINO

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2022.11.17

しゃしくえの3rdアルバム「DINO」をBandcampでリリースしました。
バンドメンバー3人に加え、松村拓海さん・佐志田葉輔さんに参加していただき、
「架空のライヴ盤」という設定のもとで制作したアルバムです。
その他の詳しい情報については下記をご参照ください。

*Track List

1. 恐竜はどこへ行ったのか? 07:45
2. 流れの中のありがとう 03:35
3. Little Elephants 01:40
4. 氷山の一角 02:40
5. 湖 04:00
6. 闇 05:05
7. 氷だけが 04:20
8. 氷の宇宙船 08:10
9. Thanks For Your River 04:05

*Total Time = 41:20

 

*
All Composed / Recorded / Designed by Kotaro Tanaka

Played by Shacique :
Kotaro Tanaka – Electric Guitar, Vox
Akihisa Yamamoto – Synthesizer
DAIFUKU – Violin, Vox

and the Guest Players : 
Takumi Matsumura – Flute, Bass Flute
Yosuke Sashida – Contrabass

 

*収録曲「氷山の一角」のMV

 

*DINOについて

高校1年生のときに作った「恐竜はどこへ行ったのか?」という曲の中に、

古い昔の写真に写る誰だか分からない人を
みんなが口を揃えて
「これは陸軍の大佐だ」って言う
だからきっとそれは正しいことなんだろう

という歌詞がある。このフレーズは今も割と気に入っていて、日常の中で自分が興味を抱く物事や、作品にしたいと思うアイディアの多くに、この言葉の空気は繋がっていると思っている。この曲は自分が人生で初めて作曲したいくつかの楽曲のうちの1つで、これまでにも何度か音源化しているけど、今回のアルバムでも再び演奏して収録した。その頃に作った曲で今も生き残っているものは殆どないし、「恐竜」の歌詞やメロディがどこから出てきたのかももう殆ど忘れてしまった。そしてこの曲を作った年(2007年)の11月17日に自分は「しゃしくえ」という名前で音楽活動を始めた。

話はちょっと変わるけど、その少しあと、高校2年生の頃から、日本の近現代、特に第2次世界大戦に関する歴史に興味を持つようになり、その流れもあって、大学生の時には戦争期の日本の油画に関する勉強をした。1人で始めたしゃしくえというユニットは、高3の頃から他者を迎えて演奏するようになり、2010年頃からバンド的な編成になっていった。メンバーの出入りがちょくちょくあって、今も残ってくれている2人が加入したのは2011年だ。


2019年3月に「Darkness」という2ndアルバムを出して、その直後の5月18日に、新しいアルバムの録音を始めた。今回の3rdアルバム「DINO」の大部分は、この日に録音したパーツでできている。1stと2ndがかなり複雑な構造の面倒な作品だったので、3rdは簡素な作りにして、早めに発表しようと思っていた。それに加えて、メンバー各自の色んな都合もあり、この頃にはもう全員揃ってのライヴ活動などは殆どできない状況になっていたので、3rdアルバムは「2ndのリリースを記念して行われた架空のイベントの演奏を収めた架空のライヴ盤」という設定にしようと考えていた。2018年に山本君(ピアノ)と、ゲストの松村拓海さん(フルート)のトリオ編成でのライヴを2回やる機会があり、割と良い感じの演奏ができた気がしたので、上述の5月18日のベーシック録音はこの3人で行った。そこに、大福(ヴァイオリン / ヴォーカル)とゲストの佐志田葉輔さん(コントラバス)の2人の音をダビングしようという計画だ。楽曲自体はほぼ全て過去のアルバムにも収録されているものだが、それらを新たに演奏し、より風通しの良い、そしてライヴ感のある録音物として形にしたいと思った。

その少し後の6月末、初めてニューヨークを訪れ、2週間ほど滞在し、寝る間も惜しんで街をうろつきまくった。その時にたまたま見つけて立ち寄ったリサイクルショップで、古い写真が大量に売られていた。無造作に積まれた膨大な印画紙の山から10数枚を選んで買ったのだが、その中には軍人が写ったものがいくつか含まれていて、これは冒頭の「恐竜」の歌詞に繋がるなと思い、次のアルバムのジャケットにしようと考えた。

しかし何かとバタバタしているうちに録音の仕上げ作業が後回しになってしまい、そうこうしているうちにコロナ禍に突入し、自分はいつのまにか山形に引っ越していた。自分以外の演奏者のダビングは東京で完了していたが、自分のヴォーカルを録り直す時間を確保できないまま山形に引っ越し、1年半が経った2022年の9月末にやっと録ることができた。11月17日でしゃしくえを始めて15年になるので、そのタイミングでリリースしようと思ってミックスを進め、なんとかその日に間に合わせた。

録音開始からリリースまでに3年以上の時間が経ち、その間に配信ライヴやリモート録音などが極めて日常的なものになったことで、「架空のライヴ盤」というコンセプトの特色は薄れたというか、あまり意味のないものになってしまった(最初からそれほど画期的なアイディアだったわけでもないけど、より一層)。そしてジャケットに使った写真も、世の中の状況が大きく変わったことで、3年前と今とでは、観る人に与える印象が全く違うものになってしまったのではないかと思う。それでもこの写真をジャケットに使ったことには、こだわりがあるともいえるし、逆にないともいえるのだけど、そのことについて詳しく書くには、今は紙幅が足りない。

このアルバムに収録した曲は全て10代〜20代のときに作曲したもので、30代に入って1年半以上が経った今、自分にとって少しずつ「過去の作品」になりつつある。こういう曲はもう作れないと思うけど、作った頃、自分がどういう人生を歩んでいたかということはそれなりによく覚えていて、音楽を再生するとその頃の記憶の一部を鮮やかに思い出せる。自分にとって作曲や録音という行為 / 現象の重要性の1つはそこにある。写真というメディアにもそれと似たような性質があるのではないかと思う。ほとんどの時間は曖昧に流れていくけど、その中で明瞭に、あるいは奇妙に、残る(残された)いくつかの瞬間がある。


自分のこれまでの(大したことのない)人生を振り返ってみると、10代や20代の頃に手に入れたかったものはほとんど手に入らず、思い描いていた景色の多くは現実にはならなかった。今の自分の姿はかつての自分が求めていたものではない気がするし、なぜ今山形にいるのかもよく分からないけど、僕は今の自分のことを気に入っている。

「恐竜はどこへ行ったのか?」という曲のテーマは「時間」だ、と、ハタチの頃の僕はバンドメンバーに説明していた気がするが、今は「記憶」の方が近いと思う。でもどちらも、人間にとって極めて曖昧でありながら、絶対的なものであるという点で共通している。

DINO(ディーノ)という単語はDinosaurの略称。小学生の頃に大好きだった漫画『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』を先月読み返したら、主人公・ダイの幼い頃の名前は「ディーノ」だったことを思い出したが、そのことと今回のアルバムタイトルは無関係だし、どこかで関係しているかもしれない。

 

2022.11.24 23:30:44 酒田にて